DT40実験法

(致死的変異の導入のためのコンディショナルミュータントの作成方法)

はじめに

現在、ヒトなどのゲノムの一次構造が解析され、さらに各遺伝子の詳細な発 現パターンが解明されつつある。これらが終了した後に行うべき研究は各遺伝子の機能解析である。しかし高等真核細胞(ヒト、昆虫、植 物など)では標的組み換えが非常に稀にしか起らないので、酵母 の系のような遺伝学的手法(ミュータントの単離)により遺伝子の機能解析が困難であった。我々は、高等真核細胞で唯一、標的組み換え (targeted integration)が効率よく起るニワトリBリンパ細胞株(DT40)を使ってDNA組み換え機構を系統的に遺伝子ノックアウ トクローンを作成して解析している。現在の標的組み換え機構の解析の進展ぶりを考慮すると、10年以内には種々の高等真核細胞でも効 率良く標的組み換えが行えるような方法が開発されるであろう。この展望のもとに、動物細胞株を使った遺伝学的解析方法について、 DT40細胞株からコンディショナルミュータントを作成することを例にして解説する。

原理

ある遺伝子の変異が個体もしくは細胞レベルで致死である場合には、その遺 伝子の機能解析を細胞株由来のミュータントで行う必要がある。細胞レベルで致死である場合には、コンディショナルミュータントを作成 しなければならない。コンディショナルミュータントの作成は、酵母では温度感受性株の単離が一般的であるが動物細胞株では実用的でな い。代わりに以下の方法が実用化されている。

(1) テトラサイクリン誘導プロモーター(論文:1)

破壊したい遺伝子をテトラサイクリン誘導プロモーターに連結した トランスジーンを用意する。これを導入した細胞で遺伝子ノックアウトによって両アレル破壊する。そして、テトラサイクリンの培地への 添加(あるいは除去)によってトランスジーンの発現を停止して、解析する分子がなくなった時に細胞に起る現象を調べる。

(2) Cre-Lox組み換えシステム(論文:2)

破壊したい遺伝子にLox-Pサイトをノックインした後に、Cre組 み換え酵素を発現する。DT40の場合には、Cre組み換え酵素発現後、48時間以内にほとんどの細胞で遺伝子破壊が起ってい た。ただしCre組み換え酵素発現後しばらくは、遺伝子破壊が起った細胞と起っていない細胞が混在するので致死的変異の場合に表 現型解析が行いにくい。

(3) エストロジェン(女性ステロイドホルモン)受容体とのキメラ分子(論文:3)

エストロジェンの培養液への添加によってキメラ分子(解析したい分子 /エストロジェン受容体のキメラ)が細胞核内と細胞質の間を移動させる実験系がある。この系は以下のつの大きなメリットがある: (i) 解析したい分子の機能を比較的すみやかにON/OFFできる、したがって同調培養した細胞のある細胞周期のフェーズでのみある遺伝子の機能をOFFにする こともできる、(ii)エストロジェン受容体の塩基配列を解析する遺伝子にノックインすることにより、その遺伝子の発現量を生理 的な条件に保つことができる。ただし、解析したい分子が細胞核内で機能して、しかもエストロジェン受容体とキメラ分子を作っても 元の分子の機能の損ねないという条件が満足された時にのみ採用できる方法である。上の(2)で説明したCre組み換え酵素をエス トロジェン受容体と結合させたキメラ分子が最近、開発された(論文:2)。

以上をまとめると、(3)の方法が優れているが適用が限定されているとい う問題がある。(1)は(2)の場合と異なり、ある遺伝子の発現を一斉に停止できるので表現解析が行い易く、第一選択の方法である。 本稿では、(1)テトラサイクリン誘導プロモーターを使ったDT40細胞株からのコンディショナル ミュータント細胞の作成方法を解説する。現在までのところ、DT40細胞株は、致死的変異の導入のため にコンディショナルミュータントの作成が確実にできる唯一の動物細胞の実験系である。

準備

(1) ミュータント細胞の作成前に考えるべきこと

_ 動物細胞株に遺伝学的手法を適用する場合に、まず、その適用 が妥当であるかをまず吟味する必要がある。下に、動物細胞株、ノックアウトマウス(初代培養細胞)を使ったミュータントの解析のそれ ぞれの特徴をまとめた。このまとめでは、片方の系の長所/短所は同時にもう一方の系のそれぞれ短所/長所でもある。

 

動物細胞株
ノックアウトマウス
  • 一細胞株の知見がどこまで普遍性を持つか不明 である。動物細胞株は、同じリニエイジ(例えば、Bリンパ細胞)に属していると考えられる細胞でも各細胞株ご とにその性質は異なっているので、この普遍性が論文をパブリッシュしようとする時に最も厳しく批判されるこ とを覚悟するべきである。したがって、できるだけ細胞間で相違点の少ない反応経路、例えば、DNA複製、クロマチン構造、ミトコンドリアなどを研究分野で解 析することが望ましい。
  • 1人の研究者が2-3種類のミュータント細胞を1年間で完成できるので、1つの 研究室で特定の反応経路に関与する遺伝子全種類のミュータントの作成が可能である。そしてミュータントの種 類を増やす程、新たな実験の展開の可能性が増える。
  • 個体由来の初代培養細胞は、いろいろな系列の細胞が混合している上に、増 殖能が限られているので、細胞内の現象を解析することが困難なことが多い。
  • コストがかかる。
  • 発生、神経などの個体レベルでの解析に必須

_ 細胞の増殖能力を損ねたり致死的になるような変異を動物細胞に導入する場合に、動物細胞は酵 母と違って細胞の状態が悪くなるとアポプトーシスが比較的簡単に誘導されることを考慮する必要がある。すなわち、いったんアポプ トーシス反応が誘導されるとアポプトーシスの原因をアポプトーシスに伴う現象と区別して解析することが困難である。DT40細胞 株は、p53 の機能が損なわれいるので、致死的変異の表現型解析に有利かもしれない。

ポイント:実験を開始する前に特定の細胞株を使うメリット、 デメリットをよく考えておく。致死的変異の解析の時には、どのような表現型アッセイ方法を使うかを考えておく。

(2) 実験の準備

DT40細胞とプラスミドDNAの入手

_ DT40のサブラインが複数、存在するが、我々はクロー ン18と呼ばれる細胞株を用いている(日本の細胞バンク(JCRB)から入手できる)。DT40細胞は、カリオタイプや標的組み 換え能などの性質が安定であり、変異クローンの親株として適している。

_ DT40細胞はRPMI1640培地で炭酸ガス(5%)イン キュベーター内で培養する。培地の中に50μM 2−メルカプトエタノール、10%牛胎児血清(非動化、56_Cで30分処理)、1%ニワトリ血清、抗性物質を加える。細胞の倍加時間は 約8 - 12時間で非常によく増殖するので、培地交換や継代を早めに行う。_____/ml以上の密度(培地が黄色くなる)で細胞はいっきに死滅する。細胞の凍結、解凍は通常の条件で行 う。

_ DT40細胞で使用可能な選択マーカーには、以下の6種類の 薬剤に対する耐性遺伝子がある(括弧内は選択薬剤の入手先と-20_Cでのストックの条 件):

ネオマイシン(大腸菌用のネオマイシンではなく、ジェネティシ ン=G418[ナカライ #165-13液体 4_C保存]を購入する)、 ハイグロマイシン[ナカライ #189-06、100mg/ml PBS]、ピューロマイシン[Sigma P7255、0.5mg/ml H2O]、ブラストサイディン[フナコシ KN-1004-01、10mg/ml H2O]、ヒスチジノール[シグマ H-6647、50mg/ml H2O]、ミコフェノール酸[ミコフェノール酸耐性遺伝子=Ecogpt、和光純薬#537-80401、 5mg/ml 0.1N NaOH]。

これらの薬剤に対する耐性遺伝子をニワトリβ−アクチンプロモー ター(ヒト、マウス細胞でも強力なプロモーターである)の下流に結合したものがそれぞれBamHI断片として切り出せるよう になったプラスミドがある(譲渡可能、下の方法1 - _と論文:4参照)。

_ テトラサイクリン誘導発現システム

最も新しいシステムであるClontech Tet-OffTM and Tet-OnTM Gene expression system、カタログ番号PT3001-1を勧める。

方法

1. 遺伝子ノックアウト用コンストラクトDNAの作成

_ ノックアウトしたいニワトリ遺伝子のcDNAを準備する

他の生物の既知遺伝子の塩基配列からニワトリのホモログ遺伝子を 単離する場合に、(i) クロスハイブリダイズでcDNAライブラリーをスクリーニングする方法、(ii) RT-PCR法、(iii) ニワトリESTライブラリーで探す(http://genetics.hpi.uni-hamburg.de/estonline.html)方法、の3種類がある。cDNAのクロスハイブリによるスクリーングは、 Methods in Enzymology Vol.200: 546のTable 1(P550)の-7の条件(アミノ酸レベルで80-90%のホモロジー)で行う。cDNAは必ずしも全長を必要としないが、遺伝子ノックアウトによって 欠失させたい部分の前後の塩基配列を含むようなクローンを単離する。

ポイント:狙うクロスハイブリの程度によってハイブリと洗いの両 方の条件を揃えながら変えていく。

_ ノックアウトしたいニワトリ遺伝子のゲノムDNAを単離する

_で単離したプローブで市販のニワトリゲノムライブラリーをスク リーニングするか、DT40細胞cDNAの塩基配列に基いてプライマーをデザインしてDT40細胞のゲノムDNAをPCR増 幅する。遺伝子全体を含むゲノムDNAは必要ではないが、少なくとも欠失させる塩基配列前後の3 Kb以上のゲノムDNAが必要である(図1)。マウスES細胞での遺伝子ノックアウトのようにisogenic DNA(遺伝子ノックアウトする細胞と同一の塩基配列のゲノムDNA)を使う必要は必ずしもない。単離したゲノムDNAのどこに遺伝子ノックアウトの時に 欠失させるべき重要なエクソンがあるかを同定しておく必要があるが、ゲノムDNA全体の一次構造を決定する必要はない。

_ ノックアウトコンストラクトDNAの作成

クローニングしたゲノムDNAの一部を薬剤抵抗性マーカー遺伝子 に置換するようにノックアウトコンストラクトDNAをデザインする(図1A)。欠失部分の長さと薬剤抵抗性マーカー遺伝子の 長さを一致させる必要はない。マーカー遺伝子の左右のゲノムDNAはその合計の長さが3 Kb(なるべく5 Kb)以上必要であり(マウスES細胞の場合、10kb以上) 、片方の長さは数百bp以上あればよい。

 我々は、マーカー遺伝子BamHI断片((2) 実験の準備 _参照)を後から挿入できるように、マーカー遺伝子の左右のゲノムDNAの間にBamHIかBglIIサイト を予め作っておいたプラスミドを準備する(図1A)。そして必要に応じていろいろな種類のマーカー遺伝子をそこに挿入して ノックアウトコンストラクトDNAを完成させる。通常、2コの対立遺伝子を別々にノックアウトする必要があるので、違うマー カー遺伝子を載せたコンストラクトDNAを2種類それぞれ作成する。

 ノックアウトコンストラクトDNAを細胞にトランスフェクトす る前に、それをリニアライズしなければならないが、そのための制限酵素サイト(ベクター部分だけを切る制限酵素、マウスES 細胞での遺伝子ノックアウトと同様、ベクター部分であればどこで切ってもよい)を考えておく。

ポイント:機能的に重要なエクソンを破壊するようにノックアウト コンストラクトをデザインする。

_ プローブDNAの作成

プローブとして用いる遺伝子断片は、ノックアウトコンストラクト DNAとはハイブリしないようにコンストラクト作成に用いた塩基配列の(すぐ)外側の配列を用いる(図1B)。細胞DNAを 切断する制限酵素は、薬剤耐性マーカーによって切断部位が変化するものを用いる。cDNAからプローブDNAを作ると繰り返 し配列を含んでいる可能性が低く、サザンブロット解析でスメアーがでにくい。

ポイント:作成したプローブDNAが実際に使えるか否か予めゲノ ムDNAのサザンブロット解析によってチェックしておく。

_ テト ラサイクリン誘導プロモーター発現コンストラクトDNAの構築

誘導プロモーター下流のポリクローニングサイトに目的のcDNA を挿入する。あとで誘導発現がきちんとチェックできるようなアッセイを考えておく。ウエスタンブロット解析は、誘導プロモー ターの発現抑制状態をチェックできるほど感度が必ずしも十分高くない。cDNAにタグを付ける場合には、タグを付けたことに よるアーチファクトの可能性を表現型アッセイの時に考慮する。我々は発現量のモニターのために、内部リボゾーム結合サイト (IRES)の下流にルシフェラーゼ遺伝子を結合したものを、上記発現コンストラクトで目的のcDNAとPolyAシグナル の間に挿入した発現ベクターも試みている(図2)。

ポイント:遺伝子の発現をできればタンパクレベルで感度よく定量 できるようなアッセイ方法を考えておく。

 

2. 遺伝子ノックアウト細胞の単離

_ テトラサ イクリン誘導プロモーターに結合する転写因子とサプレッサーを発現した細胞の準備

上に紹介したClontech Tet-OffTM and Tet-OnTM Gene expression systemのマニュアルに従って転写因子とサプレッサーの両方を発現したクローンを10コ以上単離する。そして、マニュアルに従ってテトラサイクリン誘 導プロモーター下流にルシフェラーゼ遺伝子を連結したプラスミドを導入して、transient expression(DT40の場合、導入後24時間後)されたルシフェラーゼ量を測定する。

ポイント:培地にテトラサイクリンが存在する時にルシフェラーゼ 活性が高いことは必要条件であるが、テトラサイクリンが存在しない時にルシフェラーゼ活性ができるだけバックグランドに近い クローンを選ぶことが重要である。表現型解析の時に目的遺伝子のリーキーな発現があると実験結果の解釈が困難になることがあ る。

_ PBSに懸濁した上の_で作成したDT40細胞(500μl 当たり107個)と30μgのDNAを混ぜ、エレクトロポレーション法によって、細胞に 組換え体を導入する。細胞を20 ml以上の培養液に懸濁し、1晩、培養する。

ポイント:エレクトロポレーションは機種によって条件設定してお く。

_ 細胞を選択用薬剤を含む100 mlの培養液を加え、平底96穴プレート数枚にウェル当たり200μl分づつ細胞を播く。選択用薬剤の濃度は、ジェネティシン2 mg/ml、ハイグロマイシン 2.5 mg/ml(培養液に添加後pHがアルカリに傾くので、市販の1M Hepes pH7を最終濃度 25mMになるように培養液に加える)、ブラストサイディン25μg/ml、ピューロマイシン0.5μg/ml、ヒスチジノール1 mg/ml、ミコフェノール酸25μg/mlである。通常、薬剤選択の途中で10日程度は培養液を交換する必要はない。初め て実験をする時には、薬剤選択のネガティブコントロール(エレクトロポレーションしない細胞も薬剤選択する)を置く方が無 難。

_ 約1週間後、細胞が増殖してきたらウェルから培養液ごと10 mlの選択用薬剤を含む培養液に移し、増殖させる。通常、数十クローンが得られる。10 mlの培養液で増殖した細胞の半分をディープフリーザーに凍結保存し、残りの半分よりDNAを抽出する。

ポイント:96穴プレートにコロニーが肉眼で見えたら、すぐに 10 mlの培養液に移す。そうしないとオーバーグロースで細胞が死滅する。

3. ヘテロ接合体(+/-)細胞からコンディショナルホモ接合体(- /-)細胞の作成

_ ヘテロ接合体(+/-)細胞の単離

薬剤耐性の細胞より抽出したDNAをサザン法で解析し、目的遺伝 子がノックアウトされたかどうかをスクリーニングする。ヘテロ接合体(+/-)細胞を単離するのに通常20〜50クローンの スクリーニングで十分である。

注意:ノックアウトされた遺伝子に由来するバンドと野生型遺伝子 のバンドの濃さの比率が1:2であった場合には、その遺伝子はトリソミーの状態になっている第2染色体に載っているので、 ノックアウトコンストラクトDNAを合計3種類用意する。

_ ヘテロ接合体(+/-)細胞へのテトラサイクリン誘導発現コ ンストラクトDNAの導入

1 - _で作成した発現ベクターを ヘテロ接合体(+/-)細胞にランダムインテグレーションしたクローンを数十個単離する。そしてテトラサイクリン非存在下で発現コンストラクト上の遺伝子 の発現が全く検出できない複数クローンを選ぶ。

_ ホモ接合体(-/-)細胞の作成

2 - _と異なる薬剤耐性マーカーを持つノックアウトコンストラクトDNAを使って2 - _以降の実験を繰り返す。この時トランスフェクトしたDNAが、ヘテロ接合体(+/-)細胞の、(+)アレルと組み換えを起こさずに(-)アレルにノック インすることが多い。そこで、トランスフェクトしたDNAに含まれる選択マーカーに対応する2種類の薬剤を両方含む培養液で 耐性クローンを選択する。

ポイント:致死的変異の導入の時には、3 - _で作成した複数クローン(1クローンだけでなく)からホモ接合体作成を試みることが重要。テトラサイクリン誘導発現コンストラクトからの発現量が同程度 であるにもかかわらず、ホモ接合体が採れるクローンと採れないクローンがあることを経験している。できるだけ多数の薬剤耐性 クローンをスクリーニングするために、サザンブロット解析の前にテトラサイクリン非存在下で死ぬクローンをまず選ぶのが実用 的である。

_ ホモ接合体(-/-)クローンが単離できない時の対策(コン ディショナルミュータントを作成しない場合)

     
  1. DT40細胞はアウトブレッドのニワトリ由来なので対立遺伝子間で 多くの多型性があるので、ノックアウトコンストラクトDNAと染色体DNAとの間のミスマッチで標的組み換え効率が大きく低下し た可能性がある。よってヘテロ接合体(+/-)細胞の(+)アレルよりゲノムDNAをPCR増幅して、ノックアウトコンストラク トDNAを作成し直す。また、ES細胞の遺伝子ノックアウトで行うように、別のゲノムDNA断片を使ってコンストラクトを作った り、より長いゲノムDNAを使う。

     

  2. ホモ接合体が致死の可能性がある。ノックアウトする遺伝子をヘテロ 接合体細胞で発現ベクターから恒常的に発現させた状態で、再度ホモ接合体作成を試みる。

     

  3. ホモ接合体がヘテロ接合体細胞より増殖が遅い可能性がある。薬剤選 択で早くに出現するクローンだけでなく遅くに出現するクローンも解析する。また薬剤選択7_10日目に培地交換して、増殖してくるクローンがないかをチェックする。

致死的変異導入の実験例

     
  1. 抗体遺伝子(IgH)からの転写物の切断因子(論文:1)

     

  2. 相同DNA組み換えに関与する遺伝子(論文:5):テトラサイクリ ン誘導プロモーターで作成した変異細胞が細胞死を起こすことなく細胞分裂(M期)を遂行できることを確認後、M期での染色体分析 によって表現型解析を行った。

     

  3. 染色体セントロメア構成タンパク(論文:3):染色体構成タンパク は、その強発現が細胞に障害を与えることがあり、致死的変異導入のためにテトラサイクリン誘導プロモーターの方法が使えなかった 事情が説明されている。

おわりに

本稿で説明したノックアウトクローンの作成は、マウスES細胞だけでなく ヒト細胞株でも開始されつつある(論文:6)。系統的な遺伝学的解析ができる酵母やショウジョバエでは、変異クローンを多く持っ ている研究室が圧倒的に優位に研究を進めることができる。このような優位性を将来に得るために動物細胞株でも変異細胞のコレクション 作成を開始するべき時期に来ているのではないかと筆者は考える。

変異細胞のコレクションは、いろいろな表現型アッセイ方法がどんな反応経 路を結果的に解析していることになるのかを検定するために有用である。すなわち既存の表現型解析方法(例えば、電離放射線感受性の定 量、DNA損傷の修復能力を定量する良いアッセイ系と考えられている)でいろいろな反応経路の変異細胞に解析することによって、逆に どのような反応経路の異常が細胞の電離放射線に対する感受性に影響を及ぼしうるかを系統的に調べることができる。そして電離放射線感 受性は、DNA修復機構を特異的に解析できる(あるいはDNA修復機構以外の様々な経路の異常によっても感受性が高まってしまう特異 性の少ない)アッセイ系であるかが検定できる。このような検定を繰り返すことによって、臨床診断で行われているように、どのような病 気(反応経路)の診断にはどのような臨床検査(表現型解析)を組み合わせて調べていけばよいかがマニュアル化されるであろう。

本稿で記述した変異細胞の作成技術の進歩とクローン羊に象徴される細胞培 養技術の進歩によって、これから細胞生物学は大きく飛躍するであろう。

論文

1. Wang, J., Takagaki, Y. and Manley, J. L. (1996) Targeted disruption of an essential vertebrate gene: ASF/SF2 is required for cell viability . Gene & Dev. 10: 2588-99

2. Fukagawa, T., Pendon, C., Morris, J. and Brown, W. (1999) CENP-C is necessary but not sufficient to induce formation of a functional centromere. The EMBO J. 18: 4196-4209;千葉英樹(1999) 培養細胞における新しい遺伝子ノックアウト法 実験医学 17: 155-158

3. Zhang, Y., Wienands, J., Zurn, C. and Reth, M. (1998) Induction of the antigen receptor expression on B lymphocytes results in rapid competence for signaling of SLP-65 and Syk. EMBO J. 17: 7304-7310

4. Sugawara, H., Kurosaki, M., Takata, M. and Kurosaki, T. (1997) Genetic evidence for involvement of type 1, type 2 and type 3 inositol 1,4,5-trisphosphate receptors in signal transduction through the B-cell antigen receptor. EMBO J. 16: 3078-3088

5. Sonoda, E., Sasaki, M. S., Buerstedde, J.-M., Bezzubova, O., Shinohara, A., Ogawa, H., Takata, M., Yamaguchi-Iwai, Y. and Takeda, S. (1998) Rad51 deficient vertebrate cells accumulate chromosomal breaks prior to cell death. The EMBO J. 17: 598-608

6. Chan, T. A., Hermeking, H., Lengauer, C., Kinzler, K. W. and Vogelstein, B. (1999) 14-3-3_ is required to prevent mitotic catastrophe after DNA damage. Nature 401: 616-620


DT40関係リンク

DT40 Homepage http://www.uke.uni-hamburg.de/Institutes/HPI/div3/dt40.htm

Bursal B-cell EST database http://genetics.hpi.uni-hamburg.de/estonline.html


 

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Department of Radiation Genetics, Kyoto University