修復関連遺伝子欠損細胞株の表現型解析

園田英一朗

はじめに

染色体DNAには、生命の基本設計図が書き込まれている。染色体DNAに発生した損傷を修復することは、コンピューターのオペレイションシステムに生じたバグを修復するのと同様、生命体というシステムを維持するのに必須な機能である。染色体DNAには、紫外線、電離放射線等の外的(環境)要因や細胞内代謝産物などの内的要因によって大量のDNA損傷がおこる。DNA修復機構には、損傷の種類の多様さに対応して、複数の互いに独立した修復経路が存在する。損傷は、それがある時間内に修復されないと、アポプトーシスを引き起こす。損傷が修復されても、それが不正確であれば、損傷が変異の原因になる。本稿では、人工的に損傷を誘導することによってDNA修復機構の機能を解析する方法(損傷と変異の定量、修復過程の経時的追跡、損傷を人工的に誘導したあとの細胞生存率測定)について解説する。さらに条件致死株の表現型解析についても考察する。

1. DNA損傷の検出ム紫外線損傷

ヲ原理
人工的な方法で染色体DNAに特定の損傷を誘導し、その後に定時的に損傷レベルを定量できれば、もっとも正確に損傷修復機能を評価できる。この方法を確実に応用できる損傷は、残念ながら現在のところ紫外線(UV)損傷しかない。この損傷の特徴は、(i)重要な傷の種類が2種類(ピリミジンが2個連続した部位でシクロブタン型ピリミジン二量体(cyclobutane pyrimidine dimer:CPD)や(6-4)光産物)しかない、(ii)細胞周期の特定のフェーズに損傷を誘導できる、(iii)大量に損傷が発生しても細胞が生き残る、の以上3点にある(ヒト細胞では、400,000損傷でコロニー形成効率(7に後述)がやっとx0.37倍に低下する)。(i)、(ii)の点は、化学物質によるDNA損傷誘導と対照的である。例えばクロスリンカー(DNA鎖間に共有結合を作る化学物質であり、抗癌剤として使われるシスプラチンが代表例である)では、様々な種類の傷が発生し、かつ細胞内薬剤濃度のキネティックスが不明のままである。ゆえにUV照射は、化学物質より損傷誘導に関して、より優れた表現型解析方法である。UV損傷の除去は、主にヌクレオチド除去修復によりなされ、その除去率は24時間でヒト細胞の場合に60%、マウスでは5%である。またUVDEと呼ばれる分裂酵母由来のDNA分解酵素を動物細胞に発現させると、UV損傷は塩基除去修復(関連)経路によって除かれる(ref.1)。さらに分裂酵母では間期においてコヒーシン(M期中期まで染色分体を合着させる)やコンデンシン(M期に染色体を凝縮させる)が紫外線損傷の除去にかかわっていることを示唆するデータが発表されている(ref.2)。ゆえに、UV照射後の、損傷の経時的定量は、ヌクレオチド除去修復の機能解析に使われるだけでなく、塩基除去修復、コヒーシン、コンデンシンの新たな機能の解析にも使える可能性がある。

ヲプロトコール
ELISAの原理を図1に示す。http://rg4.rg.med.kyoto-u.ac.jp/ の紫外線照射および紫外線損傷定量(金沢大学薬学研究科、松永研のプロトコール)を参照。市販のUV損傷検出抗体は、Kyowa Medex(東京)で市販されている。

ヲプロトコールの注意点
(1) 厳密な実験を行う時には、蛍光灯の光り(培地中のトリプトファンの破壊による毒物の発生、蛍光灯端からのUV)に細胞を曝露せず、黄色光のもとで実験する。
(2) 培養皿の蓋や細胞培養の培地、血清はUVを吸収するし、浮遊細胞ではその密度が高いとUV散乱の影響がでる。我々は、以下の密度のDT40(ニワトリ)細胞(3X105/ml 1%FCS添加PBS)を35mm培養皿に入れて蓋を開けた状態でUV照射する。

2. DNA損傷の検出ム染色体分析による2重鎖DNA切断の測定

ヲ原理
分子レベルの2重鎖DNA切断(double strand break、以後DSBと略す)は、M期まで修復されずに残ると、光学顕微鏡レベルの染色体断裂として見える(図1)。おそらく、G2よりM期のあいだの染色体凝縮に伴い、DSBの周囲ではクロマチンのタンパクータンパク相互作用が破壊されてしまう結果、DSBが光学顕微鏡レベルでちぎれて見えると推定されている。この染色体分析は、1DSBを1断裂とカウントでき、高感度で偽陽性がない優れた検出方法である。培養細胞の実験では、G2期にX線照射したあと、その直後のM期の断裂数を定量することによってG2期におけるDSB修復効率を特異的に解析できる(実験例)。一方、この方法の問題点は、多くのDSBが生じると損傷チェックポイント機構が働いてM期に移行できないので、その分だけ修復されていないDSB数を低く見積もってしまう点である。またG1期に電離放射線(X線やガンマ線)照射した場合には、DSBがM期まで修復されずに残ったのか、あるいは電離放射線による単鎖切断がDNA複製時にDSB に変換された(図2)のかが区別できないのも問題である。このような欠点はあるが、各DSBを定量する染色体分析は、DSB修復能を定量するのに便利なアッセイ方法である。

ヲプロトコール
http://rg4.rg.med.kyoto-u.ac.jp/ の“染色体分析”を参照。

ヲプロトコールの注意点
(1) 染色体分析の試料は、断裂を定量する場合と単に染色体の数や形を解析(カリオタイプ分析)する場合とでは、それぞれプロトコールが異なる。前者のプロトコールでは、固定した染色体をスライドガラス上で、長時間風乾したりアルコールとともに火炎処理したりする。これらの処理によってDSBが断裂として見えるようにする。
(2) 電離放射線照射で誘導された各細胞の断裂の分布は、ポワソン分布に従うはずである。従わない時には、断裂を測定する研究者の主観が影響している可能性がある。
(3) 電離放射線感受性が異なる細胞を比較する場合には、電離放射線照射量を一定にする比較法と出現する断裂数が同じぐらいになるように照射量を調節する2通りの方法があるが、後者の方法がより優れている。その理由は、後者の方法が未修復DSBを各試料間で一定にすることによって、そのDSBが細胞に与える影響(細胞死など)を各試料間で揃えることができるからである(下の実験例を参照のこと)。
(4) DT40細胞では、G2期に電離放射線照射された場合には相同組換えによってほとんどのDSB修復がなされる(ref.3)。ゆえにG2期に照射してその直後のM期で染色体分析することによって相同組換えによるDSB修復能を特異的に測ることができる。
(5) UV損傷やクロスリンカーは、DSBを直接に誘導できない。しかし生じた損傷が複製をブロックする結果、2次的に発生するDSBを検出できる(図2)。

ヲ実験例
ガンマ線照射したあと、最初の3時間以内にM期に入った細胞の染色体断裂数(100細胞調べた平均値)
変異株のジェノタイプ 照射した線量(Gy) 細胞あたり出現した平均断裂数
野生型 2 0.26
KU70-/- 2 0.35
RAD54-/- 2 2.81
RAD54-/- 0.8 0.56
RAD54-/- KU70-/- 0.3 1.72
参考文献3のTable2により抜粋。実際の実験では、3時間以内だけでなく、照射後3-6時間、6-9時間、9-12時間のそれぞれの期間で断裂数をカウントしている。同レベルの断裂数を誘導する線量を比較することによって、各ミュータントのDSB修復能を評価するべきである。3時間以内にM期に到達する細胞は、そのほとんどがG2期で照射されているので(Ref.4)、この実験でG2期からM期までのDSB修復能を定量できる。

3. DNA損傷の検出ムリン酸化ヒストンH2AX細胞免疫染色による2重鎖DNA切断の検出

ヲ原理
染色体分析以外のもう1つのDSB定量法として、リン酸化ヒストンH2AXの免疫染色が最近使われるようになった(図3A)。この方法は、1DSBのまわりのクロマチンにあるヒストンH2Aのバリアント(H2AX、ヒストンH2A全体の5-25%を占める、セリン139がリン酸化を受ける)が数十個以上、DSB発生数分後以内にリン酸化されるのを免疫染色で検出するアッセイである。細胞免疫染色で見える1スポット(フォーカスと呼ぶ)がすべて各DSBを反影している。この方法の最大の利点は、間期核で発生したDSBも定量できる点にある。実際DSB修復能が低下すると、DNA複製時に自然発生したDSBをすぐに修復できなくなる結果、その細胞核で多くのフォーカスが出現する。

ヲプロトコール
http://rg4.rg.med.kyoto-u.ac.jp/  “H2AXリン酸化フォーカス”を参照。

ヲプロトコールの注意点
(1) 細胞免疫染色の場合には、擬陽性を除外する為にネガティブコントロールが重要である。H2AXのリン酸化サイトのみを破壊したS139A(セリンをアラニンに置換)H2AXのみを発現した細胞が理想的なコントロールである(実験例参照)。
(2) 大きな単鎖ギャップでもH2AXリン酸化フォーカスが見えるという報告もある。
(3) DSBが修復された後もしばらくH2AXリン酸化フォーカスは残るようなので、電離放射線照射した場合の、DSB修復効率を定量する目的には、この方法は必ずしも適していない。

ヲ実験例
野生型細胞と抗体染色陰性対照(H2AX S139A)を2Gy X線で照射した後、30分後に固定し、免疫染色した(図3A)。

4. 変異の解析

ヲ原理
変異とは、染色体DNAの一次構造が変化することである。変異には、塩基配列が1カ所だけ変化するもの(点変異)から、染色体レベルの構造変化(染色体転座、大きな欠失など)まで、様々な種類がある。点変異の検出の為には、マーカー遺伝子を染色体内に予め入れておき、そこに入った変異をシークエンスして解析する。マーカー遺伝子には、変異が入った時に動物細胞の性質が変化するものと、細胞から回収したマーカー遺伝子を大腸菌(あるいはファージ)に導入して変異を検出する場合とがある(図4A)。いずれの場合も、マーカー遺伝子の変異によってホスト細胞(動物細胞もしくは大腸菌)の性質が変化するのを検出する。したがって使うマーカーによって、検出できる変異のパターンが大きく異なることに注意する。動物細胞で使われるマーカーは、hypoxanthine-guanine phosphoribosyltransferase (HPRT) 遺伝子やウアバイン(Ouabain)耐性遺伝子が有名である。大腸菌(ファージ)で利用されるマーカーにはLacZ(Big Blueトランスジェニックマウスで使われているマーカー)がある。
 細胞が変異原に曝されなければ、点変異の発生率はきわめて低く分裂当たり10-9のオーダーと考えられている。点変異を誘導する為には、電離放射線に比べて変異誘導作用のはるかに大きいUVとアルキル化剤(おもにDNA塩基をメチル化)がよく使われる。最近のトピックスは、遺伝子座特異的に点変異を誘導できるようになったことである(Ref.5)。この方法では、AIDと呼ばれるDNA deaminaseを高発現すると活発に転写されている領域のみに点変異が蓄積する(図4B)。ニワトリBリンパ細胞株DT40では、ある種の相同組換え欠損株で抗体遺伝子可変領域にAID依存的に点変異が蓄積する(図6 C、D)(Ref.6)。
 点変異は、複製DNAポリメラーゼの誤りで発生し、それを修復するミスマッチ修復が欠損すると正常レベルの100倍ほど蓄積する。さらに複製の阻害による細胞死誘導を回避するための特殊な分子機構(損傷乗越えDNA合成、translesion DNA synthesis: TLS、図2)が働くときにも変異が自然発生する。

ヲプロトコール
http://rg4.rg.med.kyoto-u.ac.jp/  の“抗体遺伝子可変領域の解析”を参照のこと。DT40細胞では、抗体遺伝子以外の領域の変異を定量するアッセイ系はまだ樹立できていない。

ヲプロトコールの注意点
抗体遺伝子座内の組換え(次章)で記述する。
ヲ実験例
抗体遺伝子座内の組換え(次章)で記述する(図6 C、D)。

5. 相同組換えの機能解析−抗体遺伝子座内の組換え

ヲ原理
相同組換えは、減数分裂時に母と父由来の相同染色体間でおこる。ところが、1990年代終わりになって、相同組換えは、複製時に片方の姉妹染色分体に発生した損傷をもう片方の姉妹染色分体との組換えで修復するのに必須の働きをすることがわかった(図2)。ヒトやニワトリ細胞では、1分裂当たり数十回は組換えによる修復が起こっている(Ref.7)。DT40細胞は、様々な表現型アッセイ方法があり、そして多種類の遺伝子ノックアウトクローンがあるので、相同組換えの機能を評価する為に非常に優れた実験系である。
 相同組換えは、組換えに参加するDNAの種類によって、遺伝子座内の組換え(Intragenic recombination)、相同染色体間の組換え(heteroallelic recombination)、姉妹染色分体間の組換え(sister chromatid recombination)、異なる染色体間の組換え(ectopic recombination、転座)に分類できる。DT40細胞では、抗体遺伝子座内でIg gene conversionと呼ばれる相同組換えが恒常的に起こっており、その結果、抗体可変領域が連続的に多様化される(図5A)。この相同組換えは時にフレームシフトを伴う変異の原因になり、その結果、DT40細胞は細胞表面に抗体を発現できなくなる。しかし、Ig gene conversionが継続する限り、新たな相同組換えがフレームシフトを修復し、その結果、DT40細胞は再び細胞表面に抗体を発現する(surface IgM gainもしくは復帰変異:Revertantと呼ぶ)(図5B)。我々は、特定のフレームシフト変異を抗体軽鎖遺伝子にもつ細胞をサブクローニング(約30コ)し、3週間培養(~25分裂)したあと、各クローン由来の細胞集団のなかでsurface IgM gainした細胞の割合を、IgMを蛍光免疫染色してフローサイトメターで定量することによって解析している(実験例)。野生型の細胞では、約2%の細胞が細胞表面IgM陽性になるが、相同組換え機能の低下のレベルに応じて、IgM陽性細胞の比率が減少するはずである。比率を調べたあとに、IgM陽性細胞を単離し、その抗体軽鎖遺伝子可変領域をPCR増幅して、塩基配列を決定する。この塩基配列が、相同組換えに関与する分子の機能を評価するうえで有用である。

ヲプロトコール
http://rg4.rg.med.kyoto-u.ac.jp/  の“抗体遺伝子可変領域の解析”を参照のこと。

ヲプロトコールの注意点
(1) 抗体遺伝子座内の組換えは、ニワトリBリンパ細胞にのみ観察される特殊な相同組換えであることを知る必要がある。すなわち一般に、2本の相同DNAのあいだに塩基配列の違いが例え全体の1%存在すると、相同組換えは強く抑制される。ところがこの組換えは、10%以上異なる配列どうし(V segmentとその上流のpseudo-V segment)の組換えである。ゆえに、この実験の結論が通常の相同組換えにあてはまるか否かは注意して解釈する必要がある。
(2) 1%以下の少ない細胞集団を定量するので、実験を正確におこなう必要がある。とくにIgM陽性細胞を死細胞(様々な抗体で非特異的に染色される)と区別することが重要である。その区別のため、FSC-SSCのドットプロットにおける陽性細胞の分布がもとの細胞集団の分布と同じであるか否かを調べる(図6A下)。陽性細胞がもとの細胞集団に比べて、そのFSCが小さかったりSSCが大きかった場合には、その細胞は死んでいる可能性が高い。
(3) Ig Vにあるフレームシフト変異の種類や場所によって、surface IgM gainの頻度は異なる。我々は、論文発表した変異(Ref.8)を有するDT40細胞を使って抗体遺伝子座内の組換え頻度を測っている。
(4) 表面抗体(+)→(-)シフトおよび表面抗体(-)→(+)シフトの両方の場合に、IgVの塩基配列を解析する。表面抗体発現の解析よりも、実際に起こった塩基配列の変化がより重要である。

ヲ実験例
論文発表した変異(Ref.8)を抗体軽鎖VJlに有するDT40細胞(細胞表面IgM(-))から2種類の相同組換え遺伝子欠損株(brca2trxrcc2)を作製した。さらに欠損株にRad51を強制発現したクローンも作製した。これら5種類の細胞をそれぞれ30コずつサブクローンし、3週間ずつ培養した。そして細胞表面IgMが再発現した細胞(sIgM gain)の割合をフローサイトメーターで解析した(図6A)。個々の30サブクローンのなかのIgM(+)の割合をプロットした(図6B)。IgM(+)復帰変異細胞の出現率と相同組換え効率とは相関する。
 5種類の細胞から細胞表面IgM(+)細胞を単離し、それを30コずつサブクローン化して使って同様の実験を繰り返した。3週間後に細胞表面IgMが失われた細胞(sIgM loss)の割合をフローサイトメーターで解析した(図6C)。興味深いことに、brca2trxrcc2の各変異細胞ではsIgM lossの割合は野生型細胞よりも増加していた。そこで、それぞれのsIgM loss細胞からVJl領域をPCR増幅したうえで、VJl領域の塩基配列を決定したところ、sIgM lossの原因は、野生型細胞ではジーンコンバージョンに伴って挿入された変異であるのに対して、brca2tr細胞ではジーンコンバージョンを伴わず大量に蓄積した点変異によることがわかった(図6D)。

6. 相同組換えの機能解析人工基質DNA上の2重鎖DNA切断によって誘導される組換え

ヲ原理
出芽酵母では、HOと呼ばれる制限酵素を一過性に発現して、予めゲノムにノックインしてあるHO認識サイトにDSBを作り、そこで誘導される相同組換えを遺伝学的手法(組換えに伴うマーカー遺伝子の、活性化もしくは不活性化)で定量する。同様の実験方法を哺乳動物細胞に応用したアッセイ系をM. Jasinらが開発した。この系では、HO制限酵素の代わりにI-Sce-I制限酵素を使い、マーカーにはネオマイシン耐性遺伝子(図7)かGreen Fluorescent Protein(GFP)かが使われた(Ref.9,10)。我々は、ネオマイシン耐性遺伝子を含む人工相同組換え基質DNAを卵アルブミン遺伝子座にノックインするプラスミドを作製した。この人工相同組換え基質がノックインされた野生型細胞に、I-Sce-I発現プラスミドをエレクトロポレーションすると、約5%の細胞にプラスミドが導入され、全体の約0.3-0.5%の細胞が相同組換えの結果、ネオマイシン耐性になった(Ref.11,12)。相同組換えの欠損株で同様の実験を行うと、ネオマイシン耐性コロニーの出現効率が低下する。一方、欠損した遺伝子の発現プラスミドとともにI-Sce-I発現プラスミドをエレクトロポレーションすると、ネオマイシン耐性細胞の出現効率がほぼもとのレベルに戻る(実験例)。
 相同組換えの機能解析をするための、別の表現型アッセイ法として、標的組換え効率の定量と姉妹染色分体交換(Sister chromatid exchange:SCE、図8)とがある。ただし、これらのアッセイ法の実験結果は、相同組換え能以外のファクターの影響を受ける。例えば、ブルームヘリカーゼ欠損株では野生株以上の効率で標的組換えがおこる(Ref.13)。この結果は、相同組換え機能が向上したというよりも、染色体DNAが組換えを起こしやすい状態になったことを反影していると考えられる。SCEも相同組換え機能と相関し、相同組換え欠損株では、SCEの自然発生およびUVやクロスリンカーで誘導されるタイプのSCEともに野生型細胞よりも低下する。ただしSCEレベルは、損傷乗越えDNAポリメラーゼ欠損株では上昇しているので、相同組換え機能をそのまま反影しているわけではない(Ref.7)。これらの表現型アッセイ法に対比して、M. Jasinのアッセイ法は、I-Sce-I制限酵素によって一定の数のDSB、すなわち相同組換えの基質を誘導してから、そこで実際におこる組換えを定量するので、その実験結果は、相同組換え機能をより正確に示している。

ヲプロトコール
http://rg4.rg.med.kyoto-u.ac.jp/  の“M. Jasinタイプのプラスミドによる相同組換え機能の解析”を参照のこと。

ヲプロトコールの注意点
(1) GFPマーカーを含む人工相同組換え基質では、緑色蛍光の発現をエレクトロポレーション後1ム2日で調べることができる(ネオマイシン耐性遺伝子は7ム10日)メリットがある反面、0.1%以下のGFP陽性細胞の割合を正確に定量することは困難である。
(2) I-Sce-I制限酵素の一過性発現効率が実験毎にばらつくので、野生型と遺伝子欠損細胞とのあいだの、3倍程度の差違は有意か否か疑わしい。遺伝子欠損細胞に、I-Sce-I発現プラスミドだけでなく欠損させた遺伝子を発現させるプラスミドも同時に導入する対照実験もおこなう。そして欠損細胞の表現型が戻るか(少なくとも部分的に)チェックしておく。
(3) M. Jasinらは、人工相同組換え基質をランダムインテグレーションさせて実験している(Ref.9,10)。しかし、DT40でなされているように、人工相同組換え基質を特定の遺伝子座(例、卵アルブミン遺伝子座)にノックインしておく方が、実験の再現性がよいのは言うまでもない(Ref.11,12)。

ヲ実験例
解析した細胞のジェノタイプ 導入した遺伝子 ネオマイシン耐性細胞の出現頻度(107細胞あたり) 出現頻度の相対値(I-Sce-Iを発現した野生型を1とする)
野生型 対照プラスミド
野生型 I-Sce-I発現プラスミド
RAD54-/- 対照プラスミド
RAD54-/- I-Sce-I発現プラスミド
RAD54-/- I-Sce-I発現プラスミド+Rad54 cDNA

7. DNA損傷を与える処理をした細胞株の生存曲線

ヲ原理
コロニー形成率の測定は、DNA修復経路を評価する目的で、大腸菌、酵母、ヒト細胞株に広く応用されている実験方法である。培養皿の底に張り付きながら分裂するタイプのヒト細胞株を、希釈して培養皿に播くと、2ム3週間後には播かれた各親細胞が10ム20回の細胞分裂をすることによってそれぞれコロニー(1つの親細胞に由来する子孫細胞の集団)を形成する(図9A)。ところが、播く直前に電離放射線照射すると、細胞が増殖能を失ったり死んだりする。様々な線量(x軸)の電離放射線照射した細胞株のコロニー形成効率(y軸、対数スケール)を片対数グラフ上にプロットすると、右下がりのほぼ直線のグラフになる(図9B)。個々の照射細胞が最終的に無現増殖能を回復しコロニー形成ができるか否かは、DSBが完全に修復されるか否か(すなわちAll or Nothingの過程)によって決まると考えられている。この原則は、さらにUV照射細胞やクロスリンカー処理細胞にもあてはまるとも推定されている。すなわち、これらの細胞では損傷鋳型鎖で複製ブロックが発生し(図2)、その一部がDSBに変換されることが細胞死の原因であろう(理由は、生存曲線と染色体断裂レベルとがほぼ相関するから)。
 DNA修復経路や損傷チェックポイントが遺伝的に欠損した細胞を解析すると、野生型細胞に比べて、右下がりの直線の傾きが大きくなる。これらのデータから“帰納的”に、生存曲線の傾きはDNA修復経路や損傷チェックポイントの機能を反影していると考えられている。この理由から生存曲線の解析法は、DNA修復経路や損傷チェックポイントの機能を評価する為の、便利なアッセイ方法として広く使われている。ただし、“帰納的”であるがゆえに、生存曲線のデータだけからDNA修復欠損を結論づけることはできない。例えば、細胞増殖因子を添加するだけで右下がりの直線の傾きが変化する。したがって予備実験では、生存曲線だけでなく、染色体断裂も同時に定量しておく必要がある。染色体断裂の解析によって、コロニー形成率の測定がDNA修復効率を反影していることが確認できれば、この測定は簡便かつ正確なアッセイ法である。さらに同調培養した細胞に応用することによって、例えば、分裂周期フェーズ毎の電離放射線感受性を解析することが可能である(Ref.3)。

ヲプロトコール
http://rg4.rg.med.kyoto-u.ac.jp/  の“コロニー形成率の測定”を参照のこと。

ヲプロトコールの注意点
(1) 培養皿底に付着する細胞では、培養皿の細胞をそのまま薬剤や放射線に曝露すればよい。一方、DT40のような浮遊細胞では、培養皿で曝露したあと、他の培養皿に寒天やメチルセルロースなどとともに曝露細胞を播く必要がある。
(2) 薬剤を寒天やメチルセルロースに予め溶かしこんでおく時には、これらがかなり粘稠であることを考慮し12時間以上よく混ぜる。
(3) 薬剤によって曝露の仕方が少し異なる。Methyl Methane Sulfonate(MMS、アルキル化剤)は、牛胎児血清存在下では不活化されるので、PBS(+MMS)に細胞を曝露する必要がある。また、血清なしの状態で1時間おくと、細胞の生存率が1/4に低下する(曝露時間を短くすると、実験毎の誤差が大きくなる)し、培養皿底に強く付着する(剥がす為に血清添加が必要)。
(4) 電離放射線のなかでエネルギーの強いガンマ線の場合には、培養皿の蓋や培地の量によって影響される照射量は無視できるレベルである。しかし、エネルギーの弱いX線の場合には、実際の照射量を自分が使う実験条件で予め測定したり、散乱X線の影響を防止する為の処置が必要である。
(5) 非同調細胞を一過性に薬剤もしくは放射線に曝露した場合には、細胞のなかでもっとも耐性な集団が全体のコロニー形成率を決める(電離放射線の場合、late SからG2期の細胞)(図9B)。KU70-/-のように、放射線に超高感受性な細胞(G1期)と耐性な細胞(G2期)とが混ざっている場合には、非同調細胞の%生存率は2相性のパターンを示す(図9B)。
(6) 薬剤の場合には、その効果が蓄積して顕われるがゆえに、ある濃度から急にその影響がコロニー形成率に及ぶことがある。よって薬剤処理なしの対照試料に比べて、最も耐性の試料でも、その生存率が1/100以下にまで落ちる濃度まで薬剤処理をしなければならない(図9C)。
(7) コロニー形成率と同様の発想で、薬剤もしくは放射線に曝露した直後からの細胞生存率でDNA修復能を評価する場合がある。ただし、どの時間で測定しても曝露量ム生存率がきれいに相関しない。そしてコロニー形成率ほど明確に、野生型とDNA修復欠損株とで差違が出ない。
(8) UV損傷の修復能は、UV照射後の、経時的なRNA合成やDNA合成(UV損傷修復の最後のステップ)を定量することによって正確に調べることができる。ただし定量にラジオアイソトープ(3H)を使用しなければならない。これらの方法が使えるので、UV損傷の修復能は初代培養細胞(ノックアウトマウスや患者さん由来)でも計測可能である。一方、X放射線感受性はコロニー形成率が今のところ最も信頼できるアッセイ方法である。すなわち無限増殖できる細胞株がないと、放射線感受性の解析は困難である。

8. DNA組換えの中間産物の検出ム核内フォーカスに検出

ヲ原理
生きた細胞におけるDNA組換えや修復の解析は、これらの反応が完了した結果できたDNA産物を定量するアッセイか、あるいは修復が完了した結果、生き残った細胞の比率を定量するアッセイがほとんどであった。これに対して、相同DNA組換えの中間産物を解析できる表現型アッセイ法が、酵母で作られた。このアッセイでは、特定遺伝子座へのDSBの誘導、組換えタンパクの集合をChiP(クロマチン免疫沈降)により検出、相同DNA配列どうしの相互作用の検出、DSB端からのDNA合成、DSB修復の完了が経時的に観測できる(Ref.14)。この中間産物解析により、表現型解析の精度が向上すなわち各ミュータントがどこに機能異常をもつのかをより正確に判定できるようになった。残念ながら動物細胞ではまだ中間産物を確実に解析できるような表現型解析方法が開発されていない。
 動物細胞で広く利用されている中間産物検出法に、DNA損傷部位への組換えタンパクの集合を細胞免疫染色によって検出する方法がある。この章では、電離放射線照射によって生じた2重鎖切断部位にRad51分子が集合することを検出するアッセイ系について述べる(図3B)。

ヲプロトコール
http://rg4.rg.med.kyoto-u.ac.jp/  の“Rad51フォーカスの検出”を参照のこと。

ヲプロトコールの注意点
(1) 抗体の特異性や力価は、抗体のロット毎に大きく異なる。よって陽性対照と陰性対照を使った予備実験によって至適な抗体濃度を予め決定しておく。抗原をコードした遺伝子のノックアウト細胞は理想的な陰性対照である。
(2) 損傷発生初期にフォーカスが出現するキネティックスはRad51重合の効率を反影していると考えられる。しかし損傷発生3時間以降も残っているRad51フォーカスの生物学的意味づけは不明である。
(3) 外的要因によるDNA損傷がない状態でも、弱いRad51フォーカスがS期に現れる(図3B、照射前)。おそらく、このフォーカスは、複製時に自然発生するDNA損傷が相同組換えによって修復されている現場であろう。酵母の減数分裂時に観察できるRad51フォーカスの数が実際に起こっている相同組換え数の1/4程度であることから、動物細胞でもS期に検出できるRad51フォーカスよりももっと多くの数の相同組換え修復が働いていると考えられている。
(4) X放射線照射後のRad51フォーカス形成が遅れる変異株は、Brca1、Brca2、Rad51B、Rad51C、Rad51D、XRCC2、XRCC3(Ref.6)の、各遺伝子欠損株である。興味深いことに、これらの変異株では例外なく抗体遺伝子可変領域に点変異が蓄積する。

9. 同調培養による致死細胞の表現型解析

ヲ原理
DNA修復機構は、外的要因によるDNA損傷を修復するだけでなく、複製時などに内的要因で発生するDNA損傷を修復するのに重要な働きをする。そして後者のタイプの修復に重要な働きをするほど、その修復経路の欠損細胞はゲノムが不安定になり、増殖できなくなることもある。このような恒常的に重要な働きをする修復経路が欠損した細胞を表現型解析する為には、特定の培養条件でのみ調べたい修復経路がOFFになる条件変異株を作製しなければならない(図10A)。モOFFモにする為には、特定の培養条件下に、遺伝子を欠失させたり、転写を停止させたりする方法がある。いずれの方法でも、調べたいタンパク分子の量が徐々に減少するので、表現型の解釈には注意が必要である。すなわち、調べたい分子が機能する時に、その分子がモ存在しないモ場合とその分子がモ 徐々に減るモ場合とでは、違う効果が顕われる可能性がある。
 我々は、調べたい分子が働く時に機能解析するべき分子がモ存在しないモような実験条件を作る為に、転写レベルでの発現停止とG1/Sでの同調培養とを組合せたプロトコールを作った(Ref.15)。このプロトコールでは、G1/Sで分裂周期停止中に同時に注目するタンパク分子をなくしてしまい、それ後その停止を解除して一斉にS期に進行させる。転写レベルでの発現停止の為には、培地へのテトラサイクリン添加によってON/OFFできるプロモーター(tetプロモーター)をもつトランスジーンが有効である。この方法は、発現抑制効果が顕われるのに時間がかかるRNAiにも応用できるはずである。

ヲプロトコール
http://rg4.rg.med.kyoto-u.ac.jp/  の“tetプロモーターをOFFにすることとG1/Sでの同調培養との組合せ”を参照のこと。

ヲプロトコールの注意点
(1) DT40細胞をG1/Sで分裂周期停止させるためには、ミモシン処理(G1/Sで停止)だけでなく、その前にノコダゾール処理(微小管の重合をブロックしてプロメタフェーズで分裂周期を停止させる)が必要なようである。その理由は不明である。アフィディコリンおよびハイドロオキシウレアの処理は、いずれも分裂周期停止のあと薬剤を除いても、分裂開始がいっせいに始まらない(同調培養にならない)。
(2) テトラサイクリンのみ(8時間)、テトラサイクリン+ノコダゾール処理(4時間)、テトラサイクリン+ミモシン処理(14時間)の合計26時間のテトラサイクリン処理のあいだに、注目するタンパク分子の量が十分に低くなっていないと、実験が成立しない。すなわち転写物やタンパクが安定であれば、26時間後も無視できない量が残っている。
(3) テトラサイクリン添加による遺伝子発現の抑制の度合いは、トランスジーン(tetプロモーター)をランダムインテグレーションしたクローン毎に異なる。トランスジーンの下流にInternal Ribosomal Entry Site(IRES)-ルシフェラーゼ遺伝子をつない(図10B)で、抑制の度合いを予め測定しておくことが重要である。
(4) 条件変異株作製には、Cre組換え酵素を使う方法もよく利用される。この方法には、解析するべき遺伝子を組換え酵素で欠失できない細胞が残る、欠失のタイミングが各細胞間でばらつき表現型解析がしにくい、という弱点がある。欠失できない細胞の割合を知るために、トランスジーンの下流にInternal Ribosomal Entry Site(IRES)-Green Fluorescent Protein(GFP)遺伝子をつないだトランスジーン(図10C)を使う。
(5) 相同組換えに必要な分子(例、Rad51)の量を徐々に低下させると、いったん始まった組換えが途中で停止する表現型が出現する。すなわち、損傷された姉妹染色分体と正常な分体が組換えを開始したあと染色体断裂が起こったと考えられる染色体型断裂が発生した。しかし、Rad51が全く無い状態で、相同組換えが開始されない結果、出現することが期待される姉妹染色分体の片方だけが断裂した染色体像は観察されなかった(Ref.16)。このモ徐々に低下させるモによるアーチファクトは、tetプロモーターによる条件変異株の場合だけでなくRNAiの場合でも、本プロトコールを採用することによって克服可能である。
(6) 国立遺伝研の深川博士らによってDT40細胞から染色体動原体に機能する分子の温度感受性変異株が作製された(Ref.17)。ニワトリの生理的体温が高いゆえに、DT40細胞は44°Cまで(34°Cから)培養温度を上昇でき、温度感受性変異株の作製には有利なはずである。しかし現在のところ、構造解析がなされたタンパクでも温度感受性変異をデザインすることは困難である。

ヲ実験例
姉妹染色分体がメタフェーズまで合着するのに必要な分子、コヒーシン複合体の構成因子であるScc1遺伝子を欠失した細胞(SCC1-/-,Scc1+)を、図10Bの発現プラスミド使用しながら作製した(Ref.15)。この細胞をテトラサイクリンで処理すると、Scc1を欠失する(SCC1-/-,Scc1-)。Scc1が、M期にならずS期でも重要な働きをするか否かを解析する目的で、細胞を図11Aのプロトコールに従って処理した。細胞をG1/Sに停止しながらScc1を完全に欠失させ、その後に分裂停止を解除し、S期の進行状況をSCC1-/-,Scc1-とSCC1-/-,Scc1+とを比較しながら解析した(図11B)。

8)おわりに

遺伝学的手法による解析で最も重要なステップは、“表現型の解析”である。このステップは、臨床診断と似ている。すなわち、患者や変異細胞株という複雑なブラックボックスのなかで起る現象のごく一部を、いかに簡単な方法を使って分子レベルで特異的に解析するかが勝負どころである。患者の息のアンモニア臭やケトン臭から代謝の異常を分子レベルで捕える臨床での診察や、患者さんへの負担をミニマムにした(負担をかけることによって生じるアーチファクトをミニマムにした)最近の画像診断は、表現型解析の優れた手本でもある。新しい表現型解析方法を開発したときに、それを種々の遺伝子欠損細胞のコレクションで試すことが重要である。そして、その解析方法が分子レベルの何を観察しているのか、どのようなときに擬陽性や偽陰性が生じるのかを検定しておく必要がある。例えば本文に述べたように、標的組換え効率の測定は、相同組換え能を評価するための、万能の表現型アッセイ方法ではない。以上のように、新しく作製された遺伝子欠損株を既存の表現型アッセイ方法で解析すること、新しく開発された表現型解析方法を使って既存のミュータントを解析すること、の2つを繰り返すことにより“病気細胞”の内科診断学の体系を構築することができるはずである。

9)参考文献

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14. Sugasawa, N. et al. : Mol Cell, 12 : 209-19, 2003
15. Sonoda, E. et al. : Develop. Cell, 1 : 759-770, 2001
16. Sonoda, E. et al. : EMBO J., 17 : 598-608, 1998
17. Fukagawa, T. et al. : Nucleic Acids Res., 29 :3796-803, 2001
18. Johnson, R.D. et al. : EMBO J., 19 : 1-10, 2000

10)図の説明

図1 染色体断裂の例 figure1
染色体分析では、紡錘体合成をブロックする薬剤(コルヒチン)に細胞をしばらく処理してM期の細胞を濃縮してから、細胞をガラススライド上で破裂し染色体を固定する。ゆえに染色体分析では、2本の姉妹染色分体が合着した状態でその形態を観察する。野生型細胞を、無処理(A)、G2期にX放射線照射(B)、G1期にX放射線照射(C)して、その直後のM期で染色体分析した。G1期にX線照射すると、2本の姉妹染色分体が同じサイトで断裂した染色体像がしばしば観察される。

図2 DNA複製にリンクした2種類の修復機構 figure2
染色体DNA上には大量のDNA損傷が内的要因(酸素ラジカルによる酸化など)や外的要因(紫外線など)発生する。このような損傷は、DNA複製をブロックすることによって、より重篤な損傷、1重鎖ギャップや2重鎖DNA切断(DSB)に変換される。複製時に発生する損傷、ギャップやDSBを修復するために、生命体は複製にリンクした修復機構、相同組換えと損傷乗越えDNA合成を進化に伴って獲得した。相同組換えでは、正常に複製された姉妹染色分体を一過性に鋳型にしてDNA合成する(朱で示した鎖)。損傷乗越えDNA合成では、特殊なDNAポリメラーゼを動員して複製ブロックを解除する。いずれの場合も、鋳型鎖に存在するもとのDNA損傷は除去されていないことに注意。

図3 細胞免疫染色による損傷発生や組換え修復の検出 figure3
細胞を固定して抗リン酸化ヒストンH2AX抗体(A)もしくは抗Rad51抗体(B)で免疫染色した。うすく球状染まった像が各細胞核に相当する。Aの右写真は、リン酸化アミノ酸(セリン139)を置換したH2AXしか発現できない細胞であり、抗体の特異性を検定するための陰性対照である。B左写真では、一部の細胞(S期)の核内にRad51フォーカスが見え、図2の相同組換えによる修復の現場と考えられている。X放射線照射では、照射1時間後には照射量に比例した数のRad51フォーカスが出現し、時間経過とともにフォーカスはより明瞭になる。G1期の細胞では、X放射線照射してもRad51フォーカスを誘導できない(DT40のみならず、ヒトやマウスでも)。

図4 変異の検出方法 figure4
細胞内で発生する変異はきわめて稀である。そこで変異を検出するためには、マーカー遺伝子を用いそこに変異が入った時のみ、そのマーカー遺伝子を選択的に回収できるようにして、稀な現象を高感度に検出する。変異が入った結果、マーカーが機能を失う場合と機能を獲得する場合(Revertant、復帰変異と呼ぶ)とがあるが、後者のやり方の方が検出しやすい(偽陽性が少ない)。復帰変異したマーカー遺伝子のみを捜す方法には2種類ある。(A) 細胞から精製したマーカー遺伝子を大腸菌に導入し、復帰変異の結果、野生型に戻ったマーカー遺伝子を導入された菌は青染する。 青染した菌よりマーカー遺伝子を回収し、実際どのような変異が入っているかシークエンスする。(B) 細胞に導入された緑蛍光(GFP)遺伝子が復帰変異した結果、その細胞は緑蛍光を発する。AIDを強発現すると、活発に転写されている遺伝子(マーカー)では多くの変異が蓄積する。マーカーの転写を人工的に調節するために、論文5では培地へのテトラサイクリン添加により、その活性がON/OFFできるプロモーターを使った。

図5 相同組換えによる抗体遺伝子可変領域の多様化と、それの定量  
(A) 抗体遺伝子可変領域の多様化の機構 figure5A
ヒト/マウスでは、この抗体の多様性は、B細胞の分化にともない、抗体遺伝子座にある数個から数100個あるV、D、J遺伝子断片が一つずつ選ばれ、一つの可変領域をコードするVDJに再編成(VDJ Rearrangement)されることにより作られる(抗体1次レパートリー)。一方、ニワトリでは、抗体1次レパートリーの多様性形成には、VDJ再編以外の機構すなわち、遺伝子変換(ジーンコンバージョン:Gene Conversion、相同DNA組換えの1種)がより重要である。
(B) ジーンコンバージョンの頻度をフローサイトメーターで測定する原理 figure5B
ジーンコンバージョンの頻度は、抗体を細胞表面に発現している細胞の割合をフローサイトメーターで定量するだけで簡単に推測できる。定量のために、抗体軽鎖遺伝子可変領域(VJl)にフレームシフト変異が入っているDT40細胞を使う(抗体を細胞表面に発現できない)。培養中におこるジーンコンバージョンによりフレームシフト変異は除去された結果、一部の細胞では抗体を細胞表面に発現できるようになる。そして表面抗体(+)細胞を培養していると、一部の細胞ではIg可変領域に新たな変異が入った結果、再び抗体を細胞表面に発現できなくなる。ただし、表面抗体(+)→(-)にシフトするより表面抗体(-)→(+)にシフトする頻度の方が高いから、DT40細胞を長期間培養すると、ほとんどの細胞が表面抗体(+)になる。

図6 ジーンコンバージョンの頻度を定量した実験例 figure6A figure6B-C figure6D
(A) フローサイトメーターによる細胞表面IgM発現の解析の例。表面IgMをFITCで免疫染色したデータをFL1-FL2ドットプロットで表示した。死細胞による偽陽性を除外するために、FSC-SSCドットプロットのなかの特定領域(下に図示)に入る細胞だけをFL1-FL2ドットプロットで解析する。一方、FL1-FL2ドットプロットでIgM(+)と判定された細胞に対して新たなゲートを設定して、FSC-SSCドットプロットで分布を表示してみる作業も、死細胞による偽陽性を除外するために重要である。(B) 図に示した5種類の細胞を30コずつサブクローン化し、30コそれぞれについて表面抗体(-)→(+)にシフトする頻度(3週間の期間中)をプロットした。(C) 図に示した5種類の細胞を30コずつサブクローン化し、表面抗体(+)→(-)にシフトする頻度(3週間の期間中)をプロットした。(D) 表面抗体(+)→(-)にシフトした細胞から軽鎖抗体VJl断片を単離し、塩基配列を決定した。下の数字は塩基配列を決定した領域の塩基数を、バーのなかのV、Jは抗体可変領域を示す。塗りつぶした点は点変異を、線はジーンコンバージョンの領域を示す。何も印のない塩基配列は、重鎖抗体VDJH断片に変異が新たには入った結果、表面抗体(+)→(-)にシフトしたと考えられる。

図7 相同組換え効率を定量する為の人工基質 figure7
M. Jasinらによって開発された人工基質は、互いに相補的な2種類の変異ネオマイシン耐性遺伝子が連結されている。下流の変異遺伝子には、制限酵素サイトが挿入された結果フレームシフトがある。DT40細胞では、この人工基質をオブアルブミン遺伝子座にノックインして相同組換え効率を定量する。I-Sce-I制限酵素発現プラスミドを導入すると、それを約5%のDT40細胞が発現し、人工基質のなかのI-Sce-Iサイトを切断する。切断は、ときに相同組換えで修復され、その結果、I-Sce-Iサイトは消失しかつ野生型ネオマイシン耐性遺伝子が出現する。よって、ネオマイシン耐性細胞の出現頻度を測ることによって、相同組換え機構の機能を評価できる。相同組換えのドナー配列は同じ染色体上に載っている人工基質とは限らず、別の姉妹染色分体に載っているドナー配列が使われることもある。すなわち、遺伝子座内相同組換え(Intragenic homologous recombination)ではなく、不均等姉妹染色分体組換え(Unequal sister recombination)のこともありうる。この両者は実験的に区別可能である(ref.18)。

図8 姉妹染色分体交換反応の、写真と実験の原理 figure8A figure8B
(A) 2本の姉妹染色分体をそれぞれ分染することによって両者のあいだでおこった交換反応を姉妹染色分体交換として可視化することができる。矢印は交換サイトを示す。姉妹染色分体交換は、分裂中に自然発生する(ヒト細胞では分裂あたり〜5回、ヒトに比べてゲノムのサイズが1/3であるDT40では分裂あたり〜2回、左図)ほか、様々な環境変異原で誘導される(クロスリンカーによる誘導、右図)。
(B) 姉妹染色分体を分染する原理。姉妹染色分体交換反応を検出する為には、正確に2サイクル分の時間に細胞をBrdUでラベルする必要がある。このラベルによって、一方の姉妹染色分体は片方の鎖が、もう一方の姉妹染色分体は両方の鎖が、それぞれBrdUを取込むことになる。この2本の姉妹染色分体を近紫外線に曝露すると、鎖がBrdUの部分で切断される。両方の鎖が切断された姉妹染色分体(図8Bの朱で示した部分)は、洗浄のステップでクロマチンタンパクが洗い流されるので、タンパクを染色するとほとんど染色されない。一方、片方の鎖しか切断されていない姉妹染色分体は、そのクロマチンタンパクが染色される。

図9 人工的に染色体DNAを損傷した細胞のコロニー形成率の解析

(A) 電離放射線後の生存曲線を調べる実験 figure9A
培養で無限増殖能をもつ細胞株に電離放射線を照射する。その細胞をプレートに撒き、約1ム2週間後に出現するコロニー数をカウントした。照射しない場合に出現するコロニー数を100%とした場合に、照射細胞から出現するコロニー数を生存率と定義する。
(B) 二重鎖切断修復経路に関与する遺伝子欠損クローンの放射線感受性 figure9B-C
(A)の実験において得られた結果を、照射量を横軸に生存率%で縦軸(logスケール)に示した。生存率%は、片対数グラフにおいてほぼ右下がりの直線を示すことがわかる。二重鎖切断は、相同DNA組み換えと非相同DNA端結合の2種類の主要な経路によって修復される。相同DNA組み換えの欠損株(RAD54-/-)、非相同DNA端結合経路の欠損株(KU70-/-)、それらの二重欠損クローン(RAD54-/- KU70-/-)そしてそれらの親株である野生型細胞を用意して、それらの電離放射線感受性をコロニー形成率を計測することにより調べた。RAD54-/- KU70-/-は、電離放射線に強い感受性を示すことから両方の経路は電離放射線によって誘導された損傷の修復に関して相補性であることがわかる。
(C) 薬剤処理後の生存率は、高濃度になって始めて顕われる場合がある。 figure9B-C

図10 コンディショナルミュータントの作製方法 figure10A Figure10B-C
(A) DT40細胞で遺伝子欠損細胞を作製するときには、マーカーの違う2種類の遺伝子ノックアウトコンストラクトをまず準備し、対立遺伝子を片方ずつノックアウトしていく。もし、両方の対立遺伝子を欠失させた細胞(ホモ遺伝子欠損)が単離できない場合には、ホモ遺伝子欠損が致死である可能性が高い。その場合、実験的にその機能を簡単に調節できるトランスジーンを使って、コンディショナルミュータントを作製する。機能の調節には、テトラサイクリン添加でON/OFFできるプロモーターを利用する方法、タモキシフェンと呼ばれる薬剤を添加した時にONになるLoxPシグナル認識Cre組換え酵素を利用する方法、がよく使われる。前者の方法に使う遺伝子発現ベクターを(B)に、後者の方法に使う遺伝子発現ベクターを(C)に図示した。これらの発現ベクターにノックアウトする遺伝子のcDNAを挿入したものを、ヘテロ遺伝子欠損細胞にランダムインテグレーションさせた細胞を作製する。テトラサイクリンによる発現のON/OFFやタモキシフェン添加による遺伝子発現ベクターの欠失を、それぞれ、ルシフェラーゼ活性の測定やGFP陽性細胞の消失で確認したうえで、ヘテロ遺伝子欠損で残った野生型対立遺伝子をノックアウトする。

図11 テトラサイクリンによる遺伝子発現抑制と同調培養とを組合せた表現型解析方法

figure11A figure11B
(A) テトラサイクリン添加で発現OFFになるコンディショナルミュータント(図10Bの発現プラスミド使用)で、S期やM期に細胞増殖に必須の働きをする分子の機能解析する為のプロトコールを示した。この実験では、テトラサイクリン処理によって注目する遺伝子を発現停止させると同時に、その細胞をG1/S境界で細胞分裂の進行を止める。分裂の進行を止めているあいだに、注目するタンパク分子を細胞から欠失させ、そしてG1/S境界から一斉に細胞分裂を再開させる(同調培養)。この方法により、機能解析したい分子が存在しない状態でS期やM期がどのように進行するかを詳細に調べることができる。
(B) 実験の例。この細胞に図11Bのプロトコールを応用すると、G1/S境界で細胞分裂が停止し、かつScc1は細胞から完全に消失する(ウエスタンブロット解析のSCC1-/-,Scc1-を参照)。そこでミモシンを培地から除いて分裂停止を解除した(time zero)。解除後の、細胞分裂の進行状況を、各時間における染色体DNAの含量(固定細胞をPI染色してフローサイトメータで定量)を測定することによって解析した。この実験では、Scc1(-)でもDNA複製が影響されないこと、M期中期で分裂が停止すること(別の実験から)がわかった。