Down症の乳幼児の食事のポイント



静岡県立こども病院 遺伝染色体科 長谷川知子、歯科 加藤光剛
(摂食外来スタッフ)   

 ダウン症で共通の合併症の最大のものは低緊張と発達の遅れです。それがどんな影響を 与えているかを知っておくことと、それに対して、「特別にしたほうがよいこと」と「特 別にしなくていいこと」を知っておく必要があります。

 その最大のポイントは、(1)離乳食の開始を遅らせる必要はないこと、(2)硬いものが噛 める時期は遅れるのでゆっくり進めること、(3)ストローの使用はコップ飲みが確実にで きてから、の3つです。

 実際、年長児の多くが噛まずに丸飲みでしたので離乳食について尋ねましたところ、ほ とんどの人が離乳食の開始を遅らせながらも完了時期は一般の子どもと同じでした。これ は口腔機能の習得に十分な時間をかけていなかったことがうかがわれます。開始が遅れる と親ごさんは短時間に急いで進めてしまい、子どもの発達段階が無視されやすくなります 。今でもダウン症の赤ちゃんに、体重が少ないからとか発達が遅れているからという理由 で、離乳開始を遅らせる指導がされていることがありますが、呼吸障害が強いなどの特別 な事情がないかぎり、一般の子どもと同じ時期(4ケ月ごろ)からドロドロのものをスプ ーンで食べる練習を始めても問題はありません。そのころに赤ちゃんは、舌でベロベロな ど大人の口真似もするようになっています(ただし真似の動きが出るまでちょっと時間は かかりますが)。そのときに正しい与えかたさえすれば上手に口を動かすようになります し、その新しい経験によって子どもの感覚や運動機能も発達しやすくなります。また、低 緊張や心疾患などで呼吸困難がある場合などでは乳首から吸うことだけで疲れてしまい、 哺乳量がなかなか増えないことがありますから、むしろ固形食のほうが食べやすいことか らも、離乳を遅らせる必要はないのです。ただし、離乳を急いで進めると発達がついてい けなかったり、食べることを嫌がる、ということにもなりまねませんので、ゆっくり慣ら していかなければなりません。

 それには、初めはごく少量、「ほら、ニンジンさんよ」「おいしいかな」など楽しく話 しかけながらゆっくり与え、スプーンや食物の感触に慣れさせていきます。スプーンは赤 ちゃん用の柄の長く先の細いプラスチックのものが使いやすいでしょう。初めは小さな口 に合わせて、スプーンの先に少しペーストをつけ、口唇のところに軽く置いて「アーン」 と言うと、口を開けてから閉じたところに食べ物が自然に取り込まれます。口唇から摂り 込まれた食べ物は口の中(口腔)でモグモグと処理され、飲み込まれていきます。食べる という行動のためには、この3つの過程(口唇で摂取、口腔で処理、嚥下)が必要なので す。しかし、それは時間がかかるものです。

 ダウン症の赤ちゃんでは、飲み込むまで普通よりもっと時間がかかるかもしれません。 しかし、これが子どもが発達していくのに必要な時間なのです。早く食べさせようと焦っ ては子どものペースが狂ってしまい、誤った食べかたを身につけるおそれがあります。誤 った食べかたはガツガツ大食いや丸飲みとなりますし、肥満の原因にもなるのです。

 こうして、しだいに食物の種類を増やし、子どもの口の動きに合わせて少しづつ硬いも のへと、レベルを上げていきます。ただし、少し硬めのものが食べられるようになっても 、口の中で唾液と混ぜて上手にのみ込むのは易しいことではありません。パサパサ、カサ カサした食べ物(ゆでたまご、肉類、野菜の一部など)が食べにくければ、片栗粉、葛、 ヨーグルトなどでトロミをつけてみてください。いずれにせよ、一番口をよく動かすこと のできる食べ物が、レベルが高すぎず低すぎず、ちょうどよいといえましょう。早くから 硬い物を咬まないと咀嚼力が伸びないとか噛めなくなるということもありませんし、まし てやそれで頭が悪くなるという証拠は全くありません。

 離乳の完了を急ぐのはよくありません。2歳をすぎてもかまいませんし、口の中の低緊 張が強ければ3歳を過ぎてもかまいません。いずれにせよ、普通通りに始めて、口全体の 機能の育ちに合わせて進めていくことが基本ですから、焦らず長い目で見ていくことがい ちばん確かなのです。ただし、いつまでも赤ちゃん向けの味や色あいのままにしないよう 気をつけることは必要ですが。

 もし幼児期に体重の増えが悪いと(そういう訴えでも見るとコロコロ太っていることも ありますが)、食事量が少ないのではないかと、とにかく沢山食べさせようカロリーを上 げようと無理やり口に詰め込んだり、甘味や油脂を増やしたりして、結局は後で肥満とな ってしまうことがあります。ダウン症の肥満は筋肉の弱さ少なさや運動量の不足、または 親の肥満的要因も影響はしていますが、それよりも丸飲みで食べ過ぎてしまったり、甘い ものやスナック菓子の食べ過ぎ、ジュースや乳酸飲料の飲み過ぎが大きな原因です。ダウ ン症だから異常に太るということはなく、それこそ生活習慣病なのです。なお、健常児で も食べる量は個人差があります。身長の低めの子が普通量を食べれば太りやすいでしょう 。それに子どもは気分や気候の変化が食欲に影響されるものです。

 食事は文化ですし、楽しいはずの時間でもあります。ですから食事の環境作りはとても 大事なことです。それを、訓練にとらわれたり、正常発達と比べて焦ったり、無理やりし つけたり、怒ってばかりいたり、テレビを見ながら、というのでは食事を楽しめませんか ら、ただ口に入れる餌のようなものということにもなってしまいます。

 食事そのものは訓練ではなく生活の一部のはずです。ダウン症児だから何でも訓練しな くては、というのは思い込みであって現実的な解決とはいえません。食事は楽しく気持ち よく、とはいえ赤ちゃん時代は手づかみで汚しながら…こぼしたり、手でぐちゃぐちゃに したり、なすりつけたりして…食べ始めるのでないと、大きくなってから上手にきれいに 食べることが難しくなります。それはつまり、汚さないようにとお母さんやおばあちゃん が何でも先回りしてやっていると、手も器用にはならない、ということなのです。ダウン 症の子は動作が遅くても不器用ということはありません。それに他の人のやることを観察 して真似る力は立派です。良いことをどんどん真似しやすいように少し配慮が必要となる こともあります。例えばダウン症の幼児でもお箸が使える子は大勢います。ただし、それ には、特別危ないことでなければやりたいことは何でもさせて、難しそうであれば親ごさ んも一緒にやっていく必要があります。何でも「あぶない」と取り上げたり、「まだ無理 だから」と触れさせないでいれば、どんな子でも不器用になるでしょう。子どもの発達過 程の順番は人によって少しずつ違います。お箸のほうがスプーンより難しく後から使うも のというのも思いこみです。実際おとなでもスプーンのほうをお箸より上手に使えるとは 思えません。もっともスプーンは良いお手本が少ないのかもしれませんが。ただし、スト ローはコップが上手にできてからのほうがよさそうです。それは、ストロー開始が早すぎ るとお乳を飲むときのような反応(吸啜反応)のまま吸ってしまうからです。ときにダウ ン症の子は舌が出るのでストローは与えないほうがよいとも言われますが、そこまで制限 しなくてもいいのではないかと思います。ストローで上手に飲む子は多いですし、与える 時期さえ早すぎなければ構わないと思います。

 親ごさんは、「普通の」子や他のダウン症の子と発達を比べて悩んでしまうこともある でしょう。そうすると、焦ってつい叱りつけたり、早々と諦めたりしがちですが、子ども の発達は、早熟な子もおくての子もいるように人それぞれ違っています。遅く育つ子が早 く育つ子を抜かす時期もありますが、大人になる頃には差も目立たなくなるものです。で も、他の子との比較はいけないというのも極端でしょう。むしろ上手に比較すればよいの です。たとえば「あ、まだ赤ちゃん扱いしていた」とか「あの子ができるなら、今度こん なこともやってみよう」などと、関わりのしかたを学べばよいのです。ただし、それがで きる時期は人によって違いますから、結果を急いでは酷であることを頭の隅に置いておく ことは必要です。生活の自立もしつけも、できるようになる時期があります。早すぎても 遅すぎても時期が適当でないと、反抗的になったり、怠けるようになったり、また、悪い 癖がついたり、発達の遅れが進行したり、さらに、頭を床にぶつけるなど強硬手段で抵抗 することもあります。だからといって放っておくのではなく、子どもに教えたりしつけを することは必要ですが、ただ、その前に、正しくて楽しい食事のお手本をおとながまず率 先してすることです。そうすれば子どもは真似てやりたくなるでしょう。それが難しくて できないときは、さりげなく手を貸して一緒にやり、自分でできたという達成感をもたせ ましょう。

 ただし、食事中の行儀が悪く見える場合には、食器の扱いが未熟なためなのか、わざと やっているのかを区別して、上手にできないのであれば、すこしでも良いところを見つけ てほめていくことで、やる気をださせれば、慣れていくうちに自然に上達するものです。 一方、顔を見ながらわざとやる場合は、大人が試されているのですから、一貫して毅然と した態度をとらなくてはなりません。優しくダメダメと言っても平気でしょうが、強く叱 ってもすぐ慣れて、どうやったらどう反応するか試し、ゲームになってしまうこともあり 、一日中叱り続けているということにもなってしまいます。そのような手に乗らないため には、反応しないことです。とにかく子どもの目を見ずに無視することが一番効果があり ます。いつまでも止めようとしなかったり危険なことをする時は厳しく叱らないとなりま せん。叱る時も、余程のことがない限り、たたくのはよくありません。いつもたたかれて いる子は他の人を平気でたたきます。他の子がよくないことをしていると思えば、親と同 じつもりでおしおきをするのでしょう。その時叱られるのは、たたいたほうですが、本人 は理不尽と思うものの言い返せないので不満がたまるでしょう。子どもでも、たたくので なく恐い顔をして怒るのであれば周りの人もわかってくれます。しつけは繰り返してしな くてはならず、根比べにもなるでしょうが、大のおとなが小さな子どもに負けるわけには いきません。


【特別な問題や心配に対して】

 口蓋裂がある場合:
 赤ちゃんに口蓋裂があると食べられないと信じている人も多いようなので、家族への正 しい説明が必須です。口蓋裂があると口の中が陰圧になりにくいので、哺乳の吸啜運動は 弱くなりがちです。そのため、哺乳が困難なときは口蓋裂用のニップルを使う必要があり ます。哺乳瓶で無理ならば一時的に栄養チューブを使うこともやむをえないでしょう。口 蓋裂があるときは、手術の前に食事の指導が必要になります。少しの配慮で、手術前であ っても立派に食べることができます。発達の遅れがあるので、普通より進歩がゆっくりだ というだけのことなのです。

 手術時期は、よほど呼吸などに重大な合併症がある場合以外は、普通の時期にできるは ずです。発達に遅れがあると口の中の協調運動も弱く、そこに口蓋裂が加わると発声も少 なくなりやすいので、手術の後は専門の言語指導も必要です。

 食べる量が少ない、食べないと悩み:
 食事量は人それぞれ違うものですが、それはダウン症の子でも同じことで小食でもだい たいは心配いりません。むしろ、ダウン症の子では背が低くて筋肉の発達が弱いことが多 く、普通と同じに食べると肥満になってしまうおそれすらあります。しかし、それが食べ る量の多少でなく、食事をがんこに拒む「拒食」であれば問題です。子どもが小さかった りして、親が何とか大きくしたいと必死で食べさせようとすると、親子の心が離れ、子ど もが摂食拒否に陥ることがあります。何事も無理強いは逆効果をもたらします。食事を楽 しく、その子のペースにあわせて進めていくことで、自然に食事も進むでしょう。ただし 、もし拒食が強固であれば、一時的に食事を中止してミルクでつなげ、環境を変えながら 様子を見る必要はあります。もっともこれは専門医の治療の域になります。

 子どもが一つでも病気を持っていると、子育ての自信と余裕が失われやすいのでしょう か、親子の自然なつながりを作るのにも時間がかかりやすくなります。拒食は、その問題 への子どもからのサインの一つではないでしょうか。発達の遅れがあっても、離乳期には すでに自我の芽生えはありますし、親とのコミュニケーションを求めるひとりの人間なの です。離乳を進めるにも子どもの気持ちや発達を無視して一方的に行えば、子どもは拒食 という形でせいいっぱいの抵抗を示すのかもしれません。その時には食べることだけにと らわれず、子どもをありのままの姿を見るようにしていき、生活を見直して、生活の範囲 を広げ楽しむことから始めることです。これを工夫し、身につけていくことは親にとって の「勉強」といえます。子どもにばかり勉強や療育をさせるのでは不公平ですから、親も また勉強をしていく必要がありましょう。これは、集団保育の中でも理解してもらう必要 がありますが、他の子どもの中にいて親がいないところでは、むしろ自然に食べているこ とも多いようです。

 病気や障害をもつ子どもの場合、問題を発達や気質や病気のせいにしがちですが、基本 的には誤っていないにしても、それによって否定的な育児意識になっていると小さな問題 すらも拡大してしまいます。子どもの様子をよく見て、まだ難しそうなことならば、その 子に合うように工夫していく必要があります。これは同じ悩みを抱える親ごさんどうしで 互いの工夫を話し合うことで励みにもなるでしょう。

 なお、幼い子どもが拒食を示す場合には、虫歯があったり口の中に小さな傷や潜在して いることもあるので身体的なことも常に注意していないとなりません。

 食べかたについての気づかい:

 ダウン症の子では、口が開け放しで舌が出ているということが特徴と言われていますが 、そんな姿は昔よりは見られなくなりました。この原因としては、(1)筋緊張低下による 、(2)口の動きが少ないため、(3)アデノイドなど扁桃肥大によるため、が考えられます。 舌は特に大きいわけではありませんが、上顎が小さいため口の中に納まらずはみ出てきた のです。

 原因がわかれば治療もできるわけで、正しい食べさせかた、例えば唇から食べ物を摂る といった食べさせかたを習慣づけること、口の形や動きをまねできるような遊びで関わる こと、そして、3歳をすぎる頃になったら耳鼻科でアデノイドが大きく腫れていないか検 診をうけ(呼吸に支障があればもっと低年齢でも調べてもらう)、大きすぎれば手術する ことで改善していくことができます。舌を小さくする手術もあるそうですが私たちはお勧 めしていません。それは、ダウン症では舌が特別大きいということはありませんし、舌を 切除して将来どうなるのかもわかっていませんし、それに舌の筋肉も少なめでしょうから 大事に使ってほしく、それ以上減らしたくないからです。


[専門家のための教科書・参考書]
1)金子芳洋 編、金子芳洋、向井美恵、尾本和彦 著「食べる機能の障害:その考え方と リハビリテーション」(医歯薬出版)
2)向井美恵(編)「食べる機能をうながす食事」摂食障害児のための献立、調理、介助。 (医歯薬出版)
3)摂食・嚥下リハビリテーションマニュアル

☆ご家族は離乳食の写真入りの本が参考になります。



☆赤ちゃんへの上手な食べさせ方☆


1.下唇にスプーンをのせて、
 「アーン」と言ってあげましょう。
 (スプーンは顔の真っ正面から差し出して)

 ★スプーンは傾けないで!
 
 (最初は、先の1/3位が口に入るように)

2.スプーンがカラになったら、
 そっと抜いて。
 (スプーンに残っても、気にしないで!)

 ★上唇になすりつけないで!
 
3.(ゴックンと)飲み込むのを待ってから、
 次の一さじを与えましょう。
 あわてないで。「急げばまわれ」です。
4.離乳食を次の段階に上げるには、
 上手にしっかり食べられるのを
 見極めてから進めましょう。
 急ぐことはありません。
 その方が噛む力も出てきます。
(こども病院・摂食外来スタッフ)   



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