京都大学大学院医学研究科
放射線遺伝学教室の研究内容ご紹介
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個々の部品(遺伝子産物)の機能解析を どのように行うか?

(1) 再構成実験:生化学、トランスジーンの導入

  多くの種類の分子が関与する生化学反応の解析の場合に実験のデザイン が困難

  トランスジーンの強発現によるアーチファクト

(2) 注目する分子だけを不活化する:インヒビター(中和抗体など)、ミュータント作成

  機能の、再構成より破壊実験の方がデザインが簡単。

相同組み換えとは?

(1) 減数分裂時の、相同染色体間の相同DNA組み換え

  1回/108 bp・世代、1 baseの狂いもなく正確に組み換えが起こる。

(2) 電離放射線(X線など)照射の時にできるゲノムDNAの2重鎖切断(DSB、1コでも修復  されないまま残ると致死的)の修復。相同染色体間で組み換え 修復が起こるとLoss of    heterozygosity(LOH)の原因になる。

(3) 標的組み換え(targeted integration)

相同組み換え機構の解析

 相同DNA組み換えは、酵母でX線感受性変異株を単離することによって解析された。そして、 相同DNA組み換えに関わる遺伝子がこれまでに12種類単離され、RAD52エピスタシスグループと呼ばれた。RAD52エピスタシ スグループ遺伝子の酵母シングルミュータント細胞は、基本的に同じ表現型を示し(X線感受性、減数分裂ができない、標的組み換えが起 こらない)、かつ任意の組み合わせでダブルミュータントを作成しても表現型が重症化しない。動物細胞における相同組み換え機構解析の ブレークスルーは、'93年に阪大理学部の小川、篠原らによってなされた。すなわち小川らは、ヒトでも一次構造が非常によく保存され たRAD52エピスタシスグループ相同遺伝子が存在することを証明した。このグループに属するヒト遺伝子はデータベースの検索等に よってこれまでに14種類同定されている。

 相同DNA組み換え機能が完全に欠損しても、酵母は増殖可能であるが、動物細胞は増殖できな い。我々は、酵母より100倍以上長いゲノムを持つ動物細胞では、DNA複製中に少数のDSBがランダムに起りそれが相同DNA組み 換えで修復されていることを解明した。

ニワトリBリンパ細胞株、DT40

 動物細胞にゲノムDNAを含むDNAコンストラクトを導入するとインテグレーションはランダ ムに起る。このルールの唯一の例外として、ニワトリBリンパ細胞株は標的組み換えがランダムインテグレーションと同じ効率で起こる。 標的組み換えは、導入したDNAコンストラクトがそれと相同な塩基配列を持った染色体DNAとの間で相同組み換えすることによって起 る。我々は、ニワトリBリンパ細胞株の1つDT40を使い相同DNA組み換え機構の解析を行っている。我々の研究の最終目標は、既存 のヒト細胞株でもDT40のように効率よく標的組み換えを起す方法を開発することにある。これまでのところ、なぜニワトリBリンパ細 胞株で効率よく相同組み換えが起るかは解明できていない。

この細胞株は、系統的な遺伝学的解析のために以下の(1)-(3)の優れた特徴をもつ。

(1) 7種類の選択マーカーが使えるので最大3種類の遺伝子を1細胞で欠損できる。

(2) 致死的な変異の導入のためにコンディショナルミュータントが確実に作成できる高等真核細胞で唯一の細胞株である。

(3) カリオタイプを含めて表現型が安定で、維持しやすい。

我々は、このメリットを生かしてDT40からDNA組み換え、DNA修復に関与する全遺伝子の ミュータントクローン(ミュータント細胞ライブラリー)を作成、解析している。

ミュータント細胞ライブラリーの有用性

 相同DNA組み換え機構は、酵母から ヒトに至るまでよく保存され、そして遺伝学的手法による解析、スクリーニングが容易に行える酵母で解析が進んでいる。この分野の研究 の進歩を考えると、遅くとも10年以内には既存のヒト細胞株でも標的組み換えが容易に行えるようになるであろう。将来、様々なヒト細 胞株で系統的な遺伝学的解析ができるようになった時に、新たに展開する臨床研究の可能性について以下に列挙する。

(1) 各タンパク分子の機能同定

(2) 臨床の試料から単離された遺伝子をミュータント細胞に導入することによってpolymorphismとmissense mutationの区別が可能

(3) 複数の独立した反応経路の、相補、競合などの関係を、各反応経路が欠損したシングルミュータントと両方の反応経路が欠損したダブルミュータント  を作成 して解析

(4) タンパク分子の細胞内分布の解析、細胞内で進行する生化学反応を可視化して経時的に解析する系の開発

(5) 薬剤の作用機序の解析、創薬のためのマススクリーニングへの応用

ヒト細胞株を使った系統的な遺伝学的解析のためには、使う細胞株と研究分野の選択が重要であ る。

相同DNA組み換え機構の解析のガン研究への応用

(1) ゲノムに損傷を与えて働くタイプの化学療法(シスプラチンなど)、放射線療法に対する耐性化機構の解明

(2) 相同DNA組み換え機構を標的とする新しいタイプの化学療法剤の開発

(3) ガン細胞のなかで、相同DNA組み換え機構の異常によって染色体構造の不安定性を示す細胞をスクリーニングする。

(4) 相同染色体間の相同DNA組み換えによって起こるLOH

(5) テロメアの維持機構


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Department of Radiation Genetics, Kyoto University